体たらく日記

呑、喰、旅。世のため人のためにならない体たらくの日記。

ニズワ(Nizwa)

僕は35歳で、そのときマスカットからニズワに向かうバスに乗っていた。どこまでも続く、生命の息吹きを感じさせない乾ききった大地は、まるで違う惑星に迷い込んだような錯覚を僕に与えた。ニズワに近づくと、天井のスピーカーから大きな音でBGMが流れ始めた。それはオマーンの楽器で演奏する「ノルウェイの森」とは全く違う曲だった。そのメロディーはいつものように僕を混乱させ…
と、今年もノーベル文学賞を逃した村上春樹風の文体で書き始めたけど、面倒なのでいつもの文体に戻す。

10年以上前のこと、オマーンの首都マスカットからバスで2時間かけて来たニズワは、やっとアラブに来たと感じるのに十分な光景が広がっていた。古き良きアラブの田舎町。

誰もいない17世紀に造られたニズワフォートに入ると、今自分のいる時代がいつだか分からなくなる。

ニズワフォートから町を眺めると、自分はオアシスの中にいる事に気づく。初めて観る本物のオアシスの濃い樹木に、遠い所まで来てしまったと、ひとり感慨に耽る。

土壁の傍をゆっくり歩く初老の男の背中からは、アラブの平和しか感じられない。

ニズワから更に奥の田舎町、バハラァに行く。世界遺産に登録されているバハラァフォートは大規模修繕中で残念な状態。

昼下がり、子供の手を引いて歩く黒いチャードルを着たお母さんの後ろ姿が平和過ぎる。

ニズワに戻るためバス停に行くと、次のバスは明日まで無い事を知る。一般車両も全く走っていない。後先を全く考えずに行動してしまう体たらく。仕方なくバス停でぼーっとしていると、蜃気楼の様に遠くからトラックが見えてきた。両手を思いっきり振り、トラックを止めて、ニズワ!と叫ぶ。オマーン人は、乗っていいよという仕草をする。人生初のヒッチハイクに成功。これだから旅はやめられない。

アラブ全部が危険という認識は間違っている。こんなにも平和で癒されるオアシスもアラブの顔なのだ。