本屋で美味そうな鮪の握りの写真に惹かれ、何となく手にした本の帯に、「妻がガンで5年生存率10%以下… ガラガラだった場末の鮨屋が、利益も、こだわりも、我が身をも「捨てた」時、世界的名店が生まれた。」と書かれているのを見て、「世捨人」のオレは、運命的な出会いを感じる。初音鮨の名は、絶妙な温度管理をするミシュラン二つ星店として以前から知っていたけど、あまり興味が無かった。本を買って少し読み進めると、今行くしか無いと確信。でも、簡単に予約が取れる店では無い。OMAKASEの予約開始日を準備万端で待ち、開始と同時に一瞬で満席になっていく日々から天皇即位の礼が行われる10月22日の予約を死守する。予約後、偶然にもNHKの「逆転人生」で初音鮨の涙無くしては観られない感動ストーリーが放映される。もう、運命を超え天皇陛下の啓示としか思えない。
即位礼正殿の儀をTVで観た後、初音鮨へ。らしく無い外観。
9席だけのプラチナシート。
ブレ無い、迷わ無いオレは、ハイボールもビールも経由せず、直球から。
スターターは、ほうじ茶で炊いた蛸、銀杏、超ミニトマト。
ここで大将の登場。かまどで炊いたご飯を桶に入れ、シャリを作るところから始まる。
この美味そうなおこげは、後でお椀になって出てくる。
シャリは客が来る前に作っておけと思う輩は修行が足りない。出来立てのシャリは酢が発っていて強烈だけど、あたかも人の様に時が経つにつれ徐々に円やかになっていく。時々刻々変化していくシャリの風味に合うネタを計算尽くで組み合わせる。一編の叙事詩の様だ。
豊洲で一番の鮪。初音は一番しか使わない。利益管理なんかせず、一番だけを迷い無く仕入れる。今日が最後の日と思い、悔い無く握るために。
ブロックから豪快に切り出す。客全員が固唾を呑み見守る静寂な空間に、鮪の皮を切る渇いた音が鳴る。この独特の音は、一生忘れそうに無い。切り分け後、塩を振る。
大トロ、中トロ、赤身を塩と山葵だけで喰う。猛烈に美味い。
ジャパンが加速する。
次は、鮪のサクを一瞬湯がいてから生きている鮪の体内温度と同じ30℃に温度管理したタレに漬ける。大トロ、中トロ、赤身の三種とも生と漬けの食べ比べが出来る贅沢。
見たことも無い巨大な鮑。
肝ソースとまだ若いシャリと一緒に。言うまでも無く猛烈。
而今呑み比べ。
巨大な伊勢海老。鎌倉で獲れたので鎌倉海老だけど。デカいだけで無く、この場に及んで大暴れするくらい生命力が強い。
尾の身は生で、頭の身やミソは蒸してから叩き、合体。すだちを搾る。
猛烈に美味い。
秋田で獲れた巨大天然鰻。
外はパリパリ、中はジューシー。猛烈に美味い。
おこげ、鱧、クチコのお椀。猛烈。
熟成コハダ。熟成させながら水分を抜く仕事。今まで喰ってきたコハダとは全く別次元の美味さ。超猛烈。
ジャパンお代わり。
閖上の赤貝。強烈。
穴子。強烈。
ジャパン加速中。
最高級の蝦夷馬糞うに。
猛烈。
ジャパン急加速中。
熟成鯖。水分が良い感じに抜けて旨味凝縮。超猛烈。
カワハギ肝付。猛烈。
皿を立てても崩れないハート型のイクラ。イクラの故郷の海水と同じ塩分濃度で漬けると、なぜか引っ付くとのこと。
猛烈。
焼いた鱧と松茸。
この組み合わせは、超猛烈。
何も言わなくてもぬる燗が出てきた。気が利いている。
冒頭に漬け始めた大トロ、中トロ、赤身の漬けが完成。
赤身の漬け。良い酸味。猛烈。
中トロの漬け。良い甘味。猛烈。
大トロの漬けは、更に藁で炙り香り付け。
超猛烈。
大トロ、中トロ、赤身の漬け全部盛りを
手巻きで。禁断の味。超猛烈。
カワハギ出汁のお椀。猛烈。
干瓢巻き。強烈。
玉子。強烈。
宴が終わり、海をイメージした部屋に移ると、大将は葛切りを作っていた。水で溶かした葛粉を湯せんし、氷水で急冷して固め、包丁で切って葛切りの完成。
出来立ての葛切り。初体験のピュア感が猛烈。
今度は、コーヒー豆を挽き出した。ここは何屋だ?タイ人の客も興味津々。
しっかりした風味。強烈。
黒蜜アイスクリームで〆め。
〆て2人で、11.2万円。オレ的には、初音鮨は日本一。日本で一番の素材を仕入れ、進化させた江戸前寿司の技法を使い素材の旨味を最大化。味だけでは無く、シャリを作るところから始まり、手作りのデザートで終わる叙事詩の様な独特の世界観。何より、大将と女将の生き様に感動。
では、世界一の寿司はと言うと、ハワイとアメリカ本土の素材だけで勝負するワイキキのすし匠がオレ的には不動のポジション。